ずーっとずーっと気になっていたことがあります。ヴィクトリア・ブーテンコさんの「Green for Life 」を読んだときから。
このことは、私の持っている版では93ページの14章、Healing Power of Chlorophyll (葉緑素が持つ病気治癒力)の章に出ています。
タイトルからわかるとおり、ここでヴィクトリアさんは、イルカクジラの話をしているわけではなく、葉緑素が人間の身体にいかに大事かという話をしています。葉緑素というのは、日本では「その他栄養素」の扱いですが、非常に重要な栄養素の一つです。もちろん、ヴィクトリアさんがグリーン・スムージーをすすめる主要な理由の一つになっています。
こちらに詳しく出ていますが、葉緑素(クロロフィル)は赤血球と化学式が非常に似ており、「植物の血液」人体内にあっては「緑色の血液」と呼ばれるからです。ヴィクトリアさんは「体内にもたらされる日光」と呼んでいます。日光の消毒力というのと同じぐらい、体内の毒物を退治してくれるからです。
葉緑素がうながしてくれるものとして、
・血球値の上昇
・ガンの予防
・体内に鉄を供給する
・体内を正常にアルカリ化する
・体内にとりこまれた毒物の中和
・貧血の適正化
・腸組織のクレンジングと消臭
などなど、ヴィクトリアさんは27もあげています。
そして、元看護師であるヴィクトリアさんは、こういっているのです。「人間葉緑素をとるために菜食するのであり、肉を食べているときでさえ、それは、動物が生きていたときに植物から取り込んだ栄養素をとるのが目的である」と。
人間が(葉緑素をもたない)肉食動物を食べるのは、それゆえ健康に良くない、と。
以下、「Green for Life」からの抜粋です。
「これこそが、人間がほぼ絶対といっていいほど肉食動物をたべず、逆に草食動物を食べる理由である。古代ペルシアの教義やイスラム教、そのほか多くの宗教が、ライオン、虎、豹、キツネ、鷲、ペリカンといった肉食動物を食べることを禁じている。 私の祖母は、第二次世界大戦中、飢えから肉食の動物や鳥に手を出した親戚たちが、全員、すさまじい気分の悪さに襲われたことを覚えていた。同時に、肉食であるものさえ含めて、葉物野菜を食べずに生きていける動物はいないのである。犬や猫がときどき草を食べることは、みんな知っていることであろう(拙訳・97ページ)」。
と、すると、ですね。
クジラ、イルカは肉食哺乳動物です。
とすると、クジラ、イルカを食べることは、身体に悪いんでないの?
クジラって身体が大きいですけれど、食べるものは、プランクトンとか、せいぜいイカらしいんですね(エドワード・ハウエル博士が、くじらの第一胃=食物酵素胃であざらしが自家消化する話を書いてますが、あざらし食べる話は出てきませんでした)。プランクトンだったら早く消化されるので、クジラの方はまだ食べられないでもない気もします。
でも、イルカの方は気になります。イルカは水族館でジャンプした後に餌もらうシーンを見たことがある人もいると思いますが、魚を主食とします。かわいい顔してますが、とがった顎は狼と同じ肉食動物のものです。というか、イルカは、600万年前に、狼や熊に似た肉食動物であるメソニックス類という哺乳動物が海に戻ったものといわれています。ちなみにどうしてメソニックス類が海に戻ったかというと、大食いすぎて、地上では十分に捕食ができなかったからだそうです。イルカはハンターになるために海に戻ったのです。イルカの歯は小さくとがっていて(全部犬歯?)80〜100本もあるそうです。→こちら参照。
というわけで、イルカの肉を食べるのは、栄養的には狼の肉を食べるのとかなり近い。
イルカの脳味噌って見たことありますか。私は以前この展覧会で見たことがあるのですが、人間より大きく、人間の倍ぐらいしわがあります。以前NHKスペシャルでやってましたけど、人間が高カロリーの肉を食べ始めたことで、大脳が進化したという説があるらしいですね(仮説をやや事実として表現しすぎたようですが)。イルカも海の中で同じことしていたんでしょうか。つまり、脳味噌を発達させすぎて、「種の保存」のためでなく「おいしいから(つまり趣味で食べたり、つい食べ過ぎたりする)」という理由で食べるところまでいってしまった人間以外の唯一の哺乳類なのかもしれない。人間とイルカが仲良くしたがるのは、この共感(共犯?)関係なのかもしれない。イルカは言葉もわかりますしね。
ところで、ブーテンコさんは、古代宗教でライオンやトラなどの肉食が禁じられていたことを指摘していますが……。
ちなみにね、「自分の文化では食べないので、他の文化で食べていると、すごく見下したり、気持ちが悪く感じたりする」動物って、みんな肉食なんですよね。
・犬、猫
・わに、へび、かめなどの爬虫類
・蛙
・ねずみ(雑食)
・熊(雑食)
・イルカ、クジラ
・タコ(ちなみに知能が高く、問題解決能力があるらしい)
「これらの動物を食べる文化Aでは、他に食べるものがないので、やむにやまれぬうち食べているうちに文化になった」
「一方、他の文化Bでは、健康に悪いので、宗教戒律として禁じていた」
「この二つの文化が、摩擦してしまったとき、食べない国Bの一般人は、本当はそれらが健康に悪いから禁じられたといういきさつを知らないので、Aの国の人たちを、『罰が当たる』『悪魔の手先』といって見下す(実際、肉食動物を食べると病気になるので、本当に「罰が当たった」ように見える)」
この繰り返しが実は戦争を生んできたのでは? という仮説がたちます。
あーあ、「それは本当に身体に悪いからやめなよ」といってあげれば話は早くすむのにねえ〜。
(宗教や戒律を作った上位陣が罪作りな気もしてきた)
ちょっと違うアプローチになりますが、村上龍の傑作小説『コイン・ロッカー・ベイビーズ』の中で、ヒロインのアネモネが孤独な心をなぐさめるために、ワニを飼ってますね(巨大化したため「ガリバー」と名付けられている)。中学生のときにこれを読んだ私はとてもこのシーンにあこがれて(当時は爬虫類をペットにするなんて小説じゃなきゃありえなかった)「わに飼ってみたいなあ」などと夢想したことがあるのですが、後に熱川バナナワニ園に行ったら、そのアンモニア臭気に卒倒しそうになり(今でも覚えているぐらい)、やっぱりあれは小説の中の話だと思いました。あのアンモニアが食肉加工のプロセス中に体内に戻ったりしないのかなあ。
日本のイルカ漁を追った映画『ザ・コーヴ』がアカデミー賞を受賞したり、イルカクジラ問題がしばしばニュースをにぎわせます。しかし、動物の権利や環境保護の問題からそれらを扱うことはあっても、イルカ・クジラ食が本当に健康にいいのかという議論は今まで見たことがありません。ヴィクトリアさんの本を読まなければ、「肉食動物を食べることが身体に悪い」という根拠も知りませんでした(ローフードの本は、いつも本当に刺激的な科学的仮説を提供してくれます。。。)
今度、みなさんの周りでイルカ・クジラ漁のことが話題になったら、ぜひ次回は上記のような視点から議論を進めてみたら、何かを「突破」するような議論展開ができるのではないでしょうか(そして私にこっそりどうなったか教えてください。当ブログはこのページも含め、全ページリンクフリーです)。
2010年03月21日
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(2022/12/16更新)