リメンバー・ザ・レモンの直さんに指摘されたのは今年の初めのことでした。
私はロー・グルメフードに興味がなかったし、「I Am Grateful(私は感謝している)」という言葉からレシピ本が全然想像できなかったし、だまし絵みたいな看板を使った本のカバーも(正直ながら)、ローフードの連想にはつながらなかったのです。それで、買ってもいませんでした。
彼に指摘されて初めて興味ををもった私は、I am grateful の序文を読みました。それによると、Terces(ターセス)さんは……
・16歳でナショナルチーム級のシンクロナイズドスイミングの選手になったときに、激しい食事制限から摂食障害に。これは、彼女を20年間苦しめることになる。
・摂食障害で入院した病院で、外科医から性的被害を受ける。
・通信制のカレッジで栄養士の資格を取得した後、19歳で高校時代のBFと結婚。
・再び友人から性的被害を受ける。
・20歳で離婚。
・依存症のヴェトナム退役軍人と結婚、息子をもうける。ペンシルバニアの農場に引っ越すが夫から暴力を受ける。地元のパブで働く。娘をもうける。パンの卸業者を開業。離婚。
・ペンシルバニアで初めてのメキシカン・レストランを開業。海軍の軍人と結婚。息子をもうける。カリフォルニアの基地に移る。
・化粧品業界の寵児となる。ピンクのキャディラックを乗り回す。夫がインド洋に配属になる。ある日、娘に聞かれる。「ママ、大丈夫?」 そのとき突然気づく。「娘が私に大丈夫か聞いたのは、私がそう見えないからだ」。
・その日、シャワーを浴びているときに心の声が聞こえてくる。「本当のことをいいなさい」。その後の数年間、痛々しいほど正直になる。20年間のアビューズ(たぶん摂食障害のこと)を告白する。夫の帰還後、やり直しを試みるが、結局離婚。
・子どもたちを食べさせるため、生活の危機に直面。マッサージの学校とヨガに通って身体とのリコネクトを試みる。ヴェジタリアンになる。そして、実のところ、自分が一番好きな食べ物はすなわち自分にとって一番よい食べ物であると気付く……フルーツ、野菜、種、ナッツであると。
・子どもたちと旅をして、自分の体験を話して聞かせる……自分には、自分の中の小さな声から伝えられたやるべきことがあると。
・旅の後、レストラン・ビジネスに戻ることを決意。
・子どもたちの学校卒業後、トランスフォーメーション・スタディーの機関で働き、そこで知り合ったMatthew(マシュー)と2002年に結婚。4回目の結婚で初めて健康で心が目覚めた関係を体験する。
・2002年に訪れたマウイ島でローフードの洗礼を受ける。その夏中、旅行しながらすべてローフードですごす。
・その後、(お約束のように?)サンフランシスコにあっという間にカフェ・オープン。
・オーダーすることによってお客様が自動的に肯定感を感じられるように、すべてのメニューに自己肯定の言葉をつける。
……こんな感じの人生を送ってきた方なのです。
Café Gratitude のメニューがあんなみょうちきりんで(そう思ってた)いい子っぽい(そう思ってた)名前になっていたのは、そういうわけだったのか……。
虐待されたら誰でも共感するってわけじゃありませんが、この、激しい前半生を送った女性の経営するカフェのメニューにこんな名前がついていることは、私の心をとらえました。
同じ「ありがとう」でも、その背後に、長い否定の歴史を乗り越えた重みがある人の言葉は、より心を打ちます。
タイトルに関してはそう思ったものの、なかなか中身をチェックせずにいたのですが、つい先週、読み始めたら、これが、『ビジー・ピープル』を2年間作り倒してもうちょっと複雑なものが作りたくなってきた身には、ちょうどよかったのです。
セドナのロー・スピリット・フェスティバルからの帰りの飛行機で『ビジー・ピープル』を食い入るように読んだように、週末に一気に読み、読み終わったときにはあらかたのレシピが頭に入っていました。
そして、気がついたら、これらの肯定の言葉を唱えながら、6種類ぐらいのレシピを一気に作っていました。
ところで、投稿のタイトルですけど、「私は感謝している」という直訳では全然わかんないし、人生に対する荘厳さが欲しくて、わざと古語で訳してみたんだけど、どうでしょう。

↑先日のローカフェめしは、カリフラワー・マッシュポテト以外、このレシピで作ったものです。