東京にいます。東京にいるので、日本で公開中の本年カンヌ映画祭のパルム・ドール受賞作、是枝裕和監督の『万引き家族』を劇場で、9月1日に公開が決定している、商業作品1作目でコンペティション部門に正式出品された濱口竜介監督の『寝ても覚めても』を試写室で見ました。
まず、先に『寝ても覚めても』から。
濱口竜介監督は「気鋭」という言葉がふさわしい39歳。初商業作品がカンヌコンペティション部門に正式出品。本作はフランスMK2が出資していることもあってか、今年のカンヌで、上映時点ではかなりフランス人の心にヒットしてた気がする。映画の最初の「一目惚れ」シーンとか、恋愛映画らしい恋愛映画の要素をいくつも持っていたしね。
ヒロインの心がどこに落ちるのか? 最後まで謎だし、その中にはだいぶ不条理な部分もあるので(原作のアマゾンの評を見ると「ふわふわでエゴイスト」と書かれてる)なんだか不条理すぎて恋愛そのものが「そんなんでいいのか?」と思えてしまいさえするのだが、なにしろタイトルは「寝ても覚めても」。どれが現実だかわからなくても、それでもいいんじゃない? っていうファンタジーに、私は見えました。
そして、『万引き家族』。
「本当に貧困だったら、カップラーメンばかり食べるのは高くつきすぎる(つまり本当の貧困を描けてない)」とか、「日本の誇れない部分を描いたから政府に無視された」とか「犯罪を助長する」とかtwitter で意見を見ましたけど。
まず、「犯罪を助長する」なら、8月10公開の『Ocean's 8』の方が上です! 本当に盗みたくなります(笑)(しかも、すぐ実践できそうな実用的なネタが入ってます(マジ顔))
で、『万引き家族』に話しを戻すと、これは「貧困の話」じゃないし、「日本の姿」の話じゃないし、「窃盗」の話しでもない。ひたすら「ダメ」で「不器用な人」たちの話。彼らは、修正する気がないのか、やる気はあっても能力が完全に欠如しちゃってるのかわからないけど、とにかく「まともな生活」ができない人たちなのね。短絡的。依存的。だからこそ、ラーメンばっかり食べちゃったりするのです。そしてまた行き詰まる。
でも、そういうダメな人たちが、ちゃんと暮らしている人たちができないことを、ちゃんとできているのかもしれない、っていう、そういうアイロニーのお話だと思います。「教えられることがこれ(万引き)しかない」と言うとーちゃんが、息子(らしき少年)と海で遊びながら、「最近、朝、あそこが固くなるのか。恥ずかしいことでも病気でもない。健康なことなんだ」と、さらっと、息子が不安に思っていたことから解放するセリフが言えたりする。こういうのって、ふつうの家族でちゃんとできてるのかね、っていうことを、問いかけたシーンだと思う。
もちろん、それは「ごっこ」です。人間って、「ごっこ」の世界では理想が演じられたりする。本当の家族の中に入ったときは、そんなに簡単にできないのは当然なんだと思う。この家族は、本当の家族の中でやらなくちゃいけないチャレンジから完全に逃げちゃってる。
きっとこういう人たちは世界中にいそうで、たまたま舞台が日本だけど、別にこれは日本だけの話じゃない。そういう普遍性が賞に結びついたのかなと思いました。
以上です。
また更新します。
2018年07月03日
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(2022/12/16更新)